夫の闘病・夫からのプレゼント
夫からのプレゼント
夫の面会に言った時、ちょうど廊下を歩く買い物帰りの夫の後姿を見た。はじめは夫だと気が付かず「集団で売店にきているのだなあ」等と、ぼんやりその後姿を見ていた。
そのうちに、先頭を歩いていく男性を、その歩き方や背格好、服装などから「夫ではないかしら、いや夫に違いない」と確信した。
直ぐに夫であることが分かって当然なのに、夫と確信するまでに少し間があった。足を速めて夫の横に並んで歩いた。夫はちらっと私を見て、表情を変えずすぐに前を向いた。
作業療法で作成したティッシュ入れを「はい、プレゼント」と言って手渡してくれた。夫の穏やかな表情は、病気が徐々に軽快しているのではないかと、私に思わせた。
気分にむらがあり、感情に浮き沈みがあるのだから素直に喜べないことを、何度も落胆の経験をした私は知っている。
それでも、感情がコントロールされている気がして、夫の気分が安定している気がしてうれしかった。
この調子でいけば、思ったよりも早く退院できるかもしれないとも考えてしまった。
多動が少なくなって、うつ的言葉も減少してきて、笑顔も見られるのだから、確かに病状は軽快にに向かっているのだと思う。
「最近物忘れがひどくなって」「置き場所を変えたことも忘れて、無くなったと思いすごく探してしまった」と話す夫。
「物忘れがひどいのは私も一緒だよ、歳だから仕方がないよ」と会話する私たちは、夫が病気する前のいつもの私たちのようだった。