終末期患者の心の声を聴くケアとは?
終末期患者の心の声
死を口にする患者にはどのように対応すればよい?→言葉の奥にある患者の心の声に関心を向けることが重要である
患者が死を口にする場面には、自分の死について語る場面と死にたいと希死念慮を訴える場面がある。
いずれの場合も患者のそばに寄り添い患者の声に耳を傾け死という言葉の奥にある患者の心の声を理解しようとする対応が重要な援助のカギとなる。
死を口にする患者は何を求めているのか
- 患者が死を口にする場面には、「私はいつまで生きることが出来るかしら」と言った自分の死について語る場面と、「もう死にたい」と希死念慮を訴える場面がある。
- どちらも適切なケアを行うことが大切である。
- このように死を口にする患者が何を求め、看護師はその思いにどのように対処すればよいかについて述べる。
自分の死について語る患者への反応
看護師は患者が自分の死が近いことを受け止めていても患者が死について話すことについてどう答えて良いかわからず、不安や戸惑いを感じることが多い。
このような場合、死という言葉そのものよりも患者が死について語ることの意味や言葉の奥の意味に関心を向けることが重要である。
① 患者が死について語る意味
- 患者が死について語ることは、今後どのように過ごしたいか、家族にしてあげられることは何かなどの思いの整理をすることにつながる。
- そして患者が死を口にした時こそが、死について語り合うタイミングである。
② 患者が死について語る時もとめるもの
- 多くの場合患者は答えを求めるのではなく受け止めてほしい、話を聴いてほいのではないだろうか。
- 自分の死について語る患者に対して看護師は患者にとって語ることが
- ①それほど遠くない未来に訪れるであろう死に対する準備につながること
- ②話したい、死と向き合う自分を受け止めてほしいというサインであることを理解し、死の話題を避けることなく傾聴し死という言葉の奥の思いを理解しようという対応が求められる。
死にたいと希死念慮を訴える患者への対応
① 死にたいと表現する背景に含まれている意味
- 患者の死にたいという訴えは自分の辛さを分かってほしい、行きたいという逆説的表現であるとともに不安、苦悩、悲嘆などの表現であり、背景には痛みの存在、うつ状態、家族からの社会的資源の乏しさがあると言われる。
- 背景に存在する苦痛を把握し、それぞれに応じた援助を行っていく必要がある。
② 死にたいと表現する患者とのコミュニケーションポイント
※死にたいと訴える患者とのコミュニケーション:スタッフへのアドバイスポイント
① 非審判的な態度で患者の言葉に耳を傾ける事:安易な励まし説明説得医療者の価値観の押しつけは患者の心を閉ざしてしまうことになりかねない。
② 死について患者と話し合うことが自殺を促進してしまうことはないこと:話し合いを避けること自体が患者の苦痛をより深いものにしてしまう可能性がある。
③ 患者がこのような心の内を話すのは、その医療スタッフを信頼しているからであり患者はたまたま、あるいは偶然にそのスタッフに話したのではない
④ 死にたいという言葉を受け取った医療スタッフは、患者の苦痛を適切に受け止めケアに結び付けていく上で最後のゲートキーパーとなり得る
※死にたいと訴える患者とのコミュニケーションの実際
① 話し合いを始める
- 「死にたいと思っていらっしゃるんですね、そのことについてもう少しお伺いしてもよろしいでしょうか」
- 「今感じていらっしゃることをもう少しお話しいただけますか」
② 苦痛を探索する
- 「死んでしまいたいとおっしゃいましたが、きっと何か辛いことがおありなんでしょうね。よろしかったらもう少しお話しいただけませんか」
- 「きっと何か気がかりな事や心配なことがおありなのでしょうね。今一番ご心配なことをお話しいただけませんか」
③ 共感的にかかわる
- 「これだけ辛い症状が続いているとそんな気持ちにもなりますよね」
- 「これからのことが不安でそんな気持ちになられるのですね」
- 「死にたいと感じるくらい辛いのですね」
- 「本当に無念ですよね」
④ 患者の経験を肯定する(標準化)
- 「あまりにつらい時には、多くの患者さんがそのようにおっしゃいます」
- 「今の状態であれば、そのように感じられるのは自然な事なのでしょうね」
- 「同じようなお気持ちを経験された方は他にもたくさんいらっしゃいますよ」
終末期患者の緩和ケア
苦痛緩和が出来ない終末期の患者にセデーションが行われる際の看護とは?→十分な説明がなされ、患者家族の希望が尊重されるように配慮する
セデーションを実施する際には患者家族員、医療チームメンバーでよく話し合い、全員一致で納得した上で決定できるように働きかける。
セデーション開始後も誠実に患者の尊厳に配慮して声掛けや環境整備、日常生活の援助を行うとともに家族へのケアにも心がける。
緩和できない苦痛とセデーション
- セデーションについて十分な説明がなされ、その上で患者家族が尊重されるよう看護師として配慮することが重要である。
- 終末期においても意識を清明にたもち、苦痛を緩和できることが望ましい。
- 前進の倦怠感、呼吸困難、せん妄などによりどうしても緩和できない苦痛が出現する場合がある。
- このような場合にはセデーションが考慮される。
セデーション前に看護師としてできる事
- セデーションの開始を検討する時期には、耐えがたい苦痛やせん妄により、患者の意思を確認することが困難な場合も多い。
- 患者の意思に沿ったセデーションを行うためには、早い時期から苦痛の緩和が困難になった時にセデーションを望むかどうかについて話し合っておく必要がある。
- また患者が家族とも話し合っておけるように日ごろからのサポートが重要である。
- セデーション開始時、特に持続的な不快鎮静を行うとコミュニケーションが図れなくなることから、大切ね人に合う事、伝えておきたいこと、話しておきたいことなどについて患者と家族のコミュニケーションに配慮することも重要である。
セデーション開始後に看護師としてできる事
- 看護ケアとして、セデーション開始前と同じように誠実に尊厳に配慮し、声掛けや環境整備、日常生活の援助を行う。
- 家族に対するケアとして、家族の心配や不安を傾聴するとともに家族が患者の為にできる事などを家族と共に考え、ケアに参加できるように配慮したり、患者の経過について丁寧に説明することも重要である。
終末期に適切に麻薬を使う方法とは?
病状が進行した終末期になってもオピオイドは繰り返し使用しても良い?→怖い薬と決めつけず適切に使いこなせるように経験を積む
副作用が強く出現する可能性はあるが、いくつかの注意点を踏まえれば、オピオイドを適切に使うことは可能である。怖い薬と決めつけないことが大切である。
レスキュードーズの使用状況による投与量などの見直し
- 終末期での病状の進行に伴い肝腎機能の低下や全身衰弱などからオピオイドの副作用が強く出現する可能性がある。
- 特にオピオイドの副作用である眠気や呼吸抑制は、レスキュードーズでオピオイドを繰り返し使用すること躊躇させる原因の一つだ。
- すでにオピオイドが使用されている患者の痛みが増強した場合には、レスキュードーズの使用状況によって投与量や薬物の種類を見直す必要がある。
- 終末期にオピオイドの増量やレスキュードーズを使用する際には、以下のことに注意する
オピオイド以外の眠気の原因を鑑別する
- 終末期には様々な要因で眠気を生じることが多い。
- そのためオピオイド以外の眠気の原因を鑑別し原因治療が可能なものは治療を行うことが必要である。
疼痛に対するアセスメント
- 疼痛に対しては適切なオピオイドが適切な投与量で使用さているかを常にアセスメントすることが大切である。
- 神経障害背疼痛などオピオイドが効かない痛みにオピオイドを増量したり、レスキュードーズを頻繁に使用すると過剰投与となり、眠気や呼吸抑制が出現する。
- 経口モルヒネ120mg/日を超えた時点が鎮痛補助薬の使用開始の目安とされている。
- オピオイドがききにくい痛みに対しては鎮痛補助薬の使用を検討する必要がある。
- 鎮痛効果がえられている時にはオピオイドを減量する。
眠気を訴える患者への対処
- オピオイドが原因で眠気を訴える患者には呼吸抑制が出現する可能性を考慮し早期に対処する。
- オピオイドによる眠気は呼吸抑制の前駆症状であるとも言われる。
- モルヒネ使用中の患者で腎機能障害がある場合にはモルヒネ代謝産物の生成を抑えるために投与経路を経口から持続静注や持続皮下注に変更したり、腎機能の影響を受けにくいオキシコドン、フェンタニルに切り替える。
- 終末期のがん患者の痛みの治療に関わり続けていると、眠気や呼吸抑制が出現し、痛みの治療がうまく行かなかった事例を経験する。
- オピオイドを怖い薬と決めつけてしまわずに前述の注意点を中心に事例の振り返りを重ね、終末期であってもオピオイドを適切に使いこなせるよう、経験を次のステップに活かすことが必要である。
参考資料:看護技術ケアの疑問解決Q&A