抗がん剤取り扱い時の注意点について
抗がん剤取り扱い時の注意点
抗がん薬の曝露から看護師自身が身を守るためには、どのような点に注意を払えばよい?→取り扱いに注意を要する場面を把握することが大切である
抗がん薬の毒性や取り扱い基準、曝露の経路や起こす状況など抗がん薬に関する十分な知識を持った上で、取り扱い方法を遵守し取り扱いに注意を要する場面を把握することが大切です。
抗がん薬の細胞毒性としての留意点
抗がん薬の細胞毒性としての留意点は
① 変異原性(遺伝子に変質を引き起こす性質)
② 催奇形性(先天異常や申請時に発現し、進行する構造異常を引き起こす性質)
③ 発がん性(癌を発生させる性質)である。
がんの治療の為に限られた期間に抗がん薬を使用する患者と比べ、看護師は抗がん薬の曝露を受ける潜在的なリスクは長期間にわたることから、医療従事者として十分な知識の元での取り扱い方法を遵守することが大切である。
抗がん薬のベッドサイドでの取り扱い
取り扱いに注意を要する場面
① バイアルから針を抜いたり刺す時
② 針や注射器を用いて薬剤を移動させる時
③ アンプルを開く時
④ 薬液の入っている注射器から空気を排出する時
⑤ 薬剤の投与時
⑥ IVパックに針を突き刺したりIVチューブを交換する時
⑦ IVチューブに薬液を充満させる時
⑧ チューブ、注射器、接続部からの薬液の漏出部の取扱時
⑨ 薬剤や汚染した物品の破棄時
⑩ 48時間以内に治療を受けた患者の体液の取扱時
⑪ 薬剤による汚染部位の清掃時
抗がん薬をベッドサイドで取り扱う際の留意点
抗がん薬がこぼれた時の対応
- 手袋とマスクを着用し、ペーパータオルでふき取り厚手のごみ袋に入れて、袋の口をとじて耐貫通性の容器に破棄する
- 床、机、医療器具は拭き取ったのち、薄めた洗剤液を少量付け手拭き洗いをし、最後にもう一度乾式する
- 輸液ポンプ、シリンジポンプなどの医療機器は薬剤を拭きとったのち、硬く絞った布でふき取る
抗がん薬を投与されている患者の排泄物の取り扱い
- 患者の血液、嘔吐物、尿便汗を取り扱う時は手袋とマスクを着用する
- 患者のリネンを取り扱う時は手袋とマスクを着用する
- 不要な24時間畜尿はやめる。ほんとうにその患者にとって24時間畜尿が必要なのかをチームでアセスメントする。患者にとって畜尿が必要な時は閉鎖式にする
- 尿器を使用する場合は蓋つきのものを使用する
- トイレは2回流す。流れたことを確認する
- 患者がおむつ類を使用している場合、おむつはビニール袋に入れて密閉できるよう気に捨てる
抗がん薬を取り扱った注射針などで針刺しをした場合
- 注射器内に抗がん薬が入っておらず、体内に抗がん薬が入っていない場合は局所の消毒を行う
- 抗がん薬の入っている注射器などで針刺しをした、もしくは抗がん薬が体内に入った場合は、血管外漏出時と同様の対応をする
曝露時の対処
- 抗がん薬が皮膚や手指などに付着した場合、直ちに流水で洗い流しさらに石鹸で洗う
- 抗がん薬が目に入った場合、直ちに流水または生理食塩液で洗眼する。痛み、流涙、結膜炎症状などが残るなら眼科を受診する。
抗がん剤の副作用についての患者教育
抗がん剤の副作用についての患者教育
副作用に関する患者教育のポイントは?→各プロセスや対処形態に合わせた教育を行っていくことが必要となる
患者家族が治療や副作用についてどのように受け止めているかをアセスメントする。
がん化学療法によっておこりうる副作用の発現時期の予測性を持った上で、化学療法前、化学療法実施中、化学療法後の各プロセスや対処形態に合わせた教育を行っていくことが必要である。
おこりうる副作用を予測する
①主な副作用:急性
血管外漏出、血管痛、アナフイラキシー症状、食欲不振、悪心嘔吐、骨髄抑制、下痢便秘、倦怠感、口内炎、脱毛、筋肉痛、関節痛、皮膚障害、手足症候群、腎障害
②主な副作用:遅延性
末梢神経障害、間質性肺炎、心毒性、眼障害、腎機能障害、肝機能障害、高血圧
患者教育のポイント
①それぞれの薬剤の特徴的な副作用に関する理解を深める
②化学療法前であるのか、すでに化学療法を実施しているのかなど、患者が現在どの時期にいるのかを把握し、個々の生じる不安や思いを検証する
③どの時期に患者教育をすべきかを見極め、個々の患者の対処形態に合った症状管理・セルフケアができるよう指導する
治療副作用を受け止める。プロセス対処形態に合わせた教育
- 不安や苦悩にさいなまれ、自分の直面している問題に目を向けられない場合もあれば、患者によっては医療者に身を委ねることを対処としている人、情報を集めて問題解決に尽力し状況に適応しようとしようとする人など、患者の対処形態は個々によって異なる。
- 看護師は患者が置かれている状況、物の味方と対処形態に注目し、患者教育を行っていく。
- 例えば不安が強くまた状況を掌握するには十分でない場合は、多くの情報を提供せず、患者がどれくらいの情報を欲しているかの確認が必要になる。
- がん化学療法の治療は数カ月と長期に及ぶことが多いことから、副作用による心身の苦痛により適応障害や抑うつを発症することもある。
- 化学療法施行中に初めて体験する脱毛などボディイメージを変容させる副作用や、不快感を伴う副作用により不安が増強することがある。
- どの時期にどのような患者教育を行うべきかではなく、化学療法開始前から終了後に至るまで、個々の患者の不安や身体的な苦痛を検証しながら患者教育を行うことが重要になるだろう。
有効性と有害性のバランスを考慮した説明
- 臨床の場においては悪心嘔吐に対する制吐剤の使用や皮膚障害時のステロイド外用薬の治療によるアルゴリズムが整備されており、支持療法として患者に情報提供が行われていることだろう。
- 支持療法として用いている薬剤は、その効果が認められているだけでなく薬物そのものの副作用の発現も併せて持っていることも含めて患者に情報提供を行わなければならない。
- 例えば制吐剤には便秘という副作用があることなど、使用するそれぞれの薬剤について有効性と有害性とのバランスを考えて説明することも重要になる。
がん化学療法を始める時の患者への説明方法は?
がん化学療法を始める際の患者説明のポイントは?→患者の理解度などをアセスメントし段階的に説明する。
患者に提供する情報は非常に多く、治療内容やスケジュール、副作用と対処、日常生活上の注意点など多様であるため、患者の心理状態や理解度、情報ニーズをアセスメントし段階的に説明する
心理状態・情報ニーズに合わせた段階的な説明
- がん化学療法を受ける患者は、治療前にもっとも否定的な感情やストレスを感じており、治療に関連した情報提供はストレスの緩和につながる。
- 不安に強い患者は一度に多くの情報を整理し理解する事は困難であるため、患者の心理状態に合わせることが必要である。
- 治療スケジュールにあわせて必要最小限の情報を段階的に提供したり、患者が不安に思っていることや関心がある内容を確認し、それにあわせて説明していくと効果的である。
化学療法を受ける患者が必要とする情報
- 自分が受ける化学療法の薬剤名と特徴
- 起こりうる副作用や出現時期、その対処方法
- 自分の病状や治療の効果、今後の見通し
- 日常生活上の注意点:食事、仕事や活動、避妊
- 受診のタイミング
- 気持ちをコントロールする方法
セルフケアの必要性の説明
- がん化学療法は、数ヶ月から長期にわたり行われることが多いため、患者が治療に主体的に取り組み、セルフケアできることが重要となる。
- これが患者教育の目的である。
- セルフケアについては体調の変化に気づき自分で対処したり、医療者に報告することは生活の質を維持した生活のために必要であることを患者に説明し、理解を促す。
- また、疑問や気がかりなことがあればいつでも相談にのれること、継続してサポートする事を伝えておくと、患者の抱える問題の早期把握、対処に繋げることができる。
参考資料:看護技術ケアの疑問解決Q&A